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病院の内装で安心を

  ひと昔前の病院やクリニックと言えば、内装は白か淡い色の壁紙が多く、そこに「デザイン」というキーワードとは無縁だったような気がします。これまでの病院やクリニックに求められてきたのは、「病を治す」という機能性と速効性が何よりも求められてきたからで、家からより近くのクリニック、顔見知りの医師がいるクリニックが選ばれてきました。医療機関に求められる基本的なことは今も変わりませんが、スマホで簡単に情報を得られる昨今、病を患った人は、クリニックの様々な情報を収集し、その情報を頼りに選択して訪れます。クリニックに行く前に、医師のプロフィールや顔写真を確認し、クリニックの雰囲気やクチコミなどに背中を押してもらってクリニックを訪れます。クリニックのイメージを作る外観や内装デザインは、選択に大きく影響を持つものであり、私は専門家としてそのデザインを作ることで医療の役に立ちたいと考えています。

 

安心してくつろげる空間

 クリニックの評価は、医師の腕の良さや人柄によるものは当然ですが、医療スタッフがホスピタリティのある対応をしていたとしても、クリニックに清潔感がなかったり、居心地が悪かったりでは、体を預ける患者側としては不安要素となってしまいます。医師や医療スタッフの素晴らしい働きの印象をさらに向上させるものとして外観や内装デザインは役に立たなくてはなりません。クリニックを訪れる患者は不安を持って訪れますので、人と建築が一つとなった落ち着ける空間が必要だと考えています。誰もが片手にスマホを持つ時代には、個性ある独創的な空間で差異をつくることは大切なことです。しかし、その個性が押し付けのデザインでは、患者にとって居心地悪く感じてしまうこともあります。まずは、医師をはじめとする医療スッタフとともに、どのように患者を迎え、どのようなクリニックのコンセプトにしていくのかが、重要になります。医療スタッフの働きやすいスムースな動線や作業のしやすさをヒヤリングした上で、患者目線になって、受付から診察、治療、支払いまでクリニック内での時間を安心して過ごせるようにデザインします。

 

衛生的で清潔感のある内装

 清潔感は病院において前提条件です。清潔感とは簡単に言えば、患者が「キレイ」に感じるということですが、新築時や改修時に「キレイ」であることは当然で、経年変化した後も変わらず「キレイ」だと感じ、飽きの来ない「キレイ」な内装デザインでなければなりません。個性的なデザインが求められると主張の強い内装をイメージされることが多くありますが、実際に運営が始まると、空間内では人が動き、医療器具が並び、案内の掲示雑誌や雑貨など様々なものが混在します。モノが増えたカオス空間で、主張が強いデザインは居心地の悪さを生んでしまいます。建築は内包するモノを包み込んだ上で居心地の良い場所にするため、可能な限りシンプルにコンセプトに基づく空間と色彩を提案しています。計画を進める図面の中では見えにくい実際の姿を想像し、医療スタッフと共有するコンセプトをカタチにしていくのが建築家の役割です。

 

スムースな動線計画

 クリニックのコンセプトにおいて、患者にどのように院内の時間を過ごしてもらうかは大切ですが、大前提として医師や医療スタッフが働きやすい環境でなければなりません。よくある質問に「〇〇科の経験はありますか?」というものがあります。当然、多くの経験が安心を生むことは間違いありませんが、同じ科の医師であっても、医療スタイルや使用される医療器具も異なりますし、そうなると動線計画も変わってきます。基本的には医師がどのような医療動線で治療してこられたかのヒヤリングを行い、要望をよく聞いた上で、医療器具メーカーと何度もシミュレーションし、医療スタッフを含めて打ち合わせを重ねていきます。同じ科の依頼であっても前例にとらわれることなく、ゼロベースで積み上げていくようにしています。グッドでもベターでもなく、ベストの医療空間をつくるために、動線計画はデザインに先行する最重要課題となります。

 

クリニック開業にともなう建築費用

 クリニックの内装デザインにかかる費用は、人命を預かる非常に重要な機能施設であることから、一般的な事務所や飲食店に比べて坪単価が高い傾向にあります。一般的な建築との違いは、医療配管や電子カルテシステムなど院内通信配管、X線室、CT、MRIなどのシールド工事など、特殊な工事が加わることです。それに加え、建築資材や人件費は年々上昇傾向にあり、数年前の工事費が参考にならなくなってきています。計画の中で優先順位を決め、将来対応とする部分を作るなど、予算の範囲内で工事を行うために取捨選択が必要になることもあります。それは削ぎ落とすマイナスのイメージというよりは、クリニックが目指す医療スタイルやコンセプトを明確にする上でプラスの要素と前向きにとらえることができるかもしれません。新築とビル診(ビル内テナント)の改修工事では、躯体工事や外構工事の分だけ、新築が高くなりますが設計の自由度は高くなります。ビル診はテナント内の制約がありますが、工事費は低く抑えられます。開業には建築工事以外に医療器具や当面の運転資金などでコストがかかるため、全体の事業計画のバランスを考慮しながら新築かビル診を選択されています。

 

工事施工者の選定

打ち合わせを重ね、図面を書き終えたら複数社に相見積もりをとります。クライアントのご親戚や知人、友人に建設業の方がいる場合も同様に、それ以外の数社から見積もりを取り、見積もり工事費の妥当性を検証します。これは複数の内装工事業者に見積もりを依頼することで、品質の高い工事業者を選ぶことができます。また、業者間で価格競争をするため、建築工事費を抑えることができます。しかし、コストだけで業者を選ぶことはできません。工事価格だけで選択すると、工事の質が落ちたり、追加工事の請求があったりとトラブルの元になりますので、コストを抑えながらも品質を確保することのできる工事業者の選定が必要になります。信頼できる施工者を選ぶポイントは「施工実績」と「アフターフォロー」です。工事業者に依頼する際、過去にどのような工事を担当したか、会社の施工実績と工事担当者の(現場監督)の工事経歴書を見積書に添付してもらい指標の一つとします。クリニックのコンセプトにあった施工業者であれば、こちらのイメージを共有することができ、ノウハウがあるため、さらに建築の質を向上する提案力があります。また、建築はつくって終わりではなく、完成してからがスタートであり、アフターフォローやメンテナンスについては、契約前に確認します。

 

最後に

 これまでに依頼をいただいたクライアントから、
・「以前から関心がありました」と建築デザインに興味を持たれて来院される方が多い。
・スタッフ募集で「是非ともここで働きたい」と意欲ある人が多く、求人に困らない。
・快適に治療ができる。
といったお言葉をいただいています。一般的には、病院やクリニックは進んでいきたいところではありませんが、「あのクリニックだったら行ってみたい」という地域に根付き、患者さんに愛され,そして、スタッフのモチベーションが上がる建築をつくり、建築デザインで医療をサポートしていきます。医療建築に関わることで不明なことがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。